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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)713号 判決 1966年10月21日

上告人(原告・控訴人) 柴崎喜一

右訴訟代理人弁護士 稲村良平

被上告人(被告・被控訴人)

株式会社徳陽相互銀行

右訴訟代理人弁護士 三島侃

同 三島卓郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人稲村良平の上告理由について。

論旨は原判決の理由不備をいうけれども、原判決は、所論の点の上告人の主張について、事実摘示の部分にこれを記載し、かつ、理由中でこれに対する判断を示しているから、原判決には所論の違法はない。所論は、原判決を正解せず、その前提を欠くものであって、採用できない。<以下省略>

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人稲村良平の上告理由

原判決は理由不備の違法がある。

原審記録によれば上告人は昭和三八年四月三日口頭弁論期日において昭和三八年二月二五日附準備書面を陳述し同年五月一三日口頭弁論期日においてその第二項を撤回していることが明かである、して見ると上告人は原審において被上告人が昭和三五年七月二日及び同年九月二八日においてなした本件転付債権を受働債権とする相殺は、本件貸金の支払確保のため乙号証の如き約束手形を徴している関係から原因債権たる貸金債権を自働債権として相殺することは許されないとする主張がなされていること明瞭である。

しかしながら原審事実摘示においては右の如き主張は何等触れるところなく従って理由においても右主張につき判断した形跡は全く認められない。

そもそも相殺は当事者間の便宜と公平とを目的としたものであるが故に相殺に供される双方の債権は共に同等の比重を有することが要件とせられ、自働債権に対し抗弁権が附着するが如き場合は相殺の許されざること学説判例の異論を見ない処である、従って本件の如く原因債権と手形債権とが併存する場合、債権者が原因債権を先に行使したときは手形と引換に弁済すべき抗弁権を有すること判例(註)の明示する処であるから本件においても相殺は当然その効力を認め得ない処と言わなければならない。

しかるに原審はこれらの点に全く触れることなく上告人の控訴を棄却したことは結局理由を附せざるに帰し破棄を免れない。

(註)売買代金債務の支払確保のため手形を振出した債務者は特段の事由のないかぎり右売買代金の支払は手形の返還と引換にする旨の同時履行の抗弁をなし得る。(最高裁判所判例集一四巻九号一七二一頁)

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